五対〇の中に、二百八十七点がある。——第65期 名人位決定戦。

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五対〇。

九月二十七日、埼玉の東大宮。
第65期 名人位決定戦で、名人の喜島安広が、挑戦者の坂本吉央を退けた。
五つのセットを続けて取っての防衛。
名人の在位は、これで通算九期になる。

数字だけを見れば、一方的な一日だったように読める。
けれど、結果には、もう一つの数字が並んでいる。


三百点を、五回

名人戦は、1961年に始まった、アマチュアのタイトル戦だ。
今年で、六十五期目。

名人位決定戦の種目は、ローテーション。
一番から順に球を当てていき、入れた球の番号が、そのまま点になる。
十五個をすべて足すと、百二十点。

一セットは、三百点先取。
ラック二つ半ぶんの点を積んで、ようやく一つのセットになる。
それを五つ先に取ったほうが、名人の席に座る。

残った、数字

結果には、挑戦者の点も残っている。

二百二十。二百六十四。二百八十七。二百。百十八。

第三セットは、二百八十七点。
三百まで、あと十三点。
ローテーションなら、十三番の球が一つぶん。

第一セットは、挑戦者が先に点を重ねていたと、当日の速報は伝えている。
名人は、二百十八点を続けて撞いて、そのセットを締めた。

五対〇という数字は、そのどちらも、書きとめない。

上がらせない、という言葉

試合の四日後に出たインタビューの見出しに、名人の言葉が置かれていた。
「相手を上がらせないように戦う」

五つのセットで、挑戦者は一度も、三百点に届いていない。

名人位に初めて就いたのは、2014年の第54期。
四年後の第58期に、その席へ戻ってくる。
そこから先、名人位は、ほかの誰の手にも渡っていない。

挑戦者は、八月に京都で開かれたA級戦を勝ち抜いて、この日の席に着いた。
一年に一人だけが、その席に座れる。

鉛筆の、スコアシート

ハウストーナメントの決勝で、あと一ラックまで行ったことのある人は、少なくないだろう。

スコアシートは、たいてい鉛筆で書かれている。
勝った側の欄には、丸が一つ。
負けた側の欄には、そこまでに取ったラックの数。
消しゴムで消して、書き直したあとが、紙の上にうっすら残っていることもある。

試合が終わると、シートは店のカウンターに戻され、いつのまにか捨てられる。
あと一つ、の数字も一緒に。

財布の奥に、折りたたんだ一枚をしまってある人もいるかもしれない。

五対〇に、戻る

来年の名人戦も、また各地の予選から始まる。

名人の欄には、五つの「W」。
挑戦者の欄には、五つの数字。

五対〇の中に、二百八十七点がある。


結果の出典

👉 ビリヤードのきわめ