はじめてのビリヤード
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音は、手の届かないところで鳴っていた。
「今年も、来てもらうことにしたから」 母からの電話は、それだけだった。実家の居間には、古いアップライトのピアノがある。小学校の四年から、中学を出るまで習っていた…
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拾ったのは、誰かが外した玉だった。
ひとーつ。ふたーつ。 窓の外から、声がそろって聞こえてくる。祝日の朝。近くの小学校の校庭で、町内の運動会をやっているらしい。マイクの声が少し割れて、拍手がまばら…
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昼まで、崩れなかった。
七時十分 卵焼きを、端に寄せる。空いたところに、ほうれん草のおひたし。最後に、ミニトマトを一つ。蓋を閉める。留め具の片方が、少しゆるい。 昼に開けると、たいてい…
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ポケットに、去年の秋が入っていた。
明日から、十月。クローゼットの奥から、衣装ケースを引き出す。 蓋を開けると、防虫剤の匂いが立ちのぼる。畳んだままのカーディガン。袖の伸びたニット。一度しか着なか…
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手に馴染むまで、使い込んだものがある。
革靴を買った日のことは、今でも覚えている。 箱を開けた時の、革の匂い。 最初は少し硬かった。 でも、履くたびに足の形に馴染んでいった。 半年も経つと、靴の方が自…
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気づいたら、競技になっていた。
最初は、遊びだった。 友人と笑いながら撞いて、外れて笑って、入ったら喜んで。 それだけで十分楽しかった。でも、少し通ううちに、変わってきた。 「もう少し入るよう…
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観た後、なぜか構え方が変わっていた。
配信を、なんとなく開いた。 友人が「面白いから観てみて」と送ってきたリンクだった。 ビリヤードの試合。 正直、あまり期待していなかった。 でも、少しだけ観るつも…
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なぜか、また来てしまった。
一回だけのつもりだった。 友人に誘われて、なんとなく行った。 キューの握り方もわからなかった。 ほとんど入らなかった。 なのに、翌週また来ていた。 誰に誘われた…
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指先まで意識したのは、久しぶりだった。
猫背だと、よく言われた。 デスクの前では、気づくと肩が前に出ている。 スマホを見ている時は、首が下がっている。 わかっている。 わかっているけど、気づいた時には…
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下手な自分が、恥ずかしかった。
夜中だった。 布団の中で、スマホを開いていた。 おすすめに流れてきた動画を、なんとなくタップした。 ギターを弾いている人がいた。 指が、弦の上を信じられない速さ…
