猫背だと、よく言われた。
デスクの前では、気づくと肩が前に出ている。
スマホを見ている時は、首が下がっている。
わかっている。
わかっているけど、気づいた時にはもう丸まっている。
姿勢を直そう、と何度も思った。
でも、意識し続けるのは疲れる。
30分もすれば、また元に戻っている。
ある日、隣のテーブルの人を見ていた
友人に連れられて、ビリヤード場にいた。
自分の番を待っている間、隣のテーブルをなんとなく見ていた。
女性が一人で撞いていた。
派手なフォームじゃなかった。
むしろ、音まで静かだった。
構えに入る瞬間、背筋がすっと伸びた。
肩の力は抜けている。
左手の指が、テーブルの上で静かに開いている。
キューが前に出る。
指先まで、神経が通っている感じがした。
力んでいるわけでもない。
頑張っている感じでもない。
ただ、丁寧に動いていた。
撞き終わって、身体を起こす。
その動きも、静かだった。
なんだか、きれいだな、と思った。
自分の番が来た
キューを受け取った。
見よう見まねで構えてみた。
テーブルに身を傾ける。
その瞬間、背筋が伸びているのがわかった。
誰かに「姿勢を直して」と言われたわけじゃない。
構えるために身体を倒したら、自然とそうなっていた。
左手を台の上に置く。
指を開いて、キューを乗せる。
指先に、意識がいく。
それだけで、少し驚いた。
普段、指先のことなんて考えない。
スマホを触っている時も、キーボードを叩いている時も、指先に神経を向けたことはほとんどなかった。
でもこの瞬間、指先まで意識していた。
久しぶりだった。
構えるたびに、身体が戻っていく
何球か撞いているうちに、気づいた。
構えるたびに、身体が同じ場所へ戻っていく。
背筋が伸びる。
肩の位置が決まる。
呼吸が落ち着く。
「姿勢を直そう」と意識しているのではない。
球を撞くためにテーブルに向かったら、自然と身体が整っていた。
丁寧に動く、ということ
チョークを塗る。
テーブルの周りを歩く。
構える。
息を整える。
撞く。
ビリヤードの動きは、どれも小さい。
でも、どれも雑にはできない。
チョークの塗り方一つで、球の回転が変わる。
構えが崩れれば、狙いがズレる。
力めば、手球が暴れる。
だから、一つひとつの動きが丁寧になっていく。
指先まで意識する。
呼吸を整える。
余計な力を抜く。
それは、身体を美しく見せることじゃなかった。
身体を、美しく使うということだった。
帰り道に、気づいたこと
店を出て、駅まで歩いた。
なんとなく、背筋が伸びている気がした。
意識しているわけじゃない。
でも、さっきまで何度も構えていた身体が、そのままの感覚を残していた。
ガラスに映った自分の姿が、少しだけ違って見えた。
大げさな変化ではない。
でも、肩が少し後ろに引かれている。
首が、少しだけ上がっている。
あの隣のテーブルの人のようになれたわけではない。
でも、さっきまでの自分とは、少しだけ違う気がした。
指先まで
指先まで意識したのは、久しぶりだった。
でも、きっとまた忘れる。
デスクに戻れば、肩は前に出るし。
スマホを見れば、首も下がる。
だから、またテーブルの前に立とうと思う。
球を撞くたびに、身体は思い出してくれる気がするから。
👉 下手な自分が、恥ずかしかった。
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