ビリヤードのすゝめ
-
転生したら手球だった件 第7話「俺が、曲がりきれなかった日」
プロローグ お姉さんが、お兄さんを呼んだ。名字じゃない。俺の知らない、下の名前だった。 ……下の名前、だと。 俺——玉野想(30歳・童貞・万年B級・現在手球)は…
-
次の柱まで、歩く。
夕方 長い竿の先に、小さな火がついている。法被を着た人が、それを掲げて、通りを歩いてくる。柱の前で立ち止まり、竿を上へ伸ばす。ガラスの中に、火が移る。竿を下ろし…
-
音は、手の届かないところで鳴っていた。
「今年も、来てもらうことにしたから」 母からの電話は、それだけだった。実家の居間には、古いアップライトのピアノがある。小学校の四年から、中学を出るまで習っていた…
-
最後の朝だけ、晴れていた。
三日分の写真 旅行の写真が、まだ整理できていない。三日間で、二百枚あまり。 高校のころの友人と四人で、海沿いの町へ行った。何年も前から、いつか行こうと言っていた…
-
数えていたのは、落ちたほうだった。
四十七本 四十七本。ティッシュの上に並べて、もう一度、端から数える。やっぱり、四十七本。 シャワーを止めたあと、排水口の網から、指でつまみ上げたものだ。網の上で…
-
転生したら手球だった件 第6話「同じシャフトに、撞かれた日」
プロローグ お姉さんが、キューケースのチャックを開けた。ジーッ。 出てきたのは、黒いシャフトだった。木目が、ない。照明を、鈍く返している。 隣で、お兄さんが自分…
-
あと少しで、満ちる。
十五夜の月だけを見て、十三夜の月を見ないのは、縁起が悪いとされてきた。それを、片見月と呼ぶのだという。 十三夜は、秋の二度めの月見。旧暦の九月十三日の夜に、栗や…
-
括弧の中に、好きと書いてあった。
社内報の原稿に、空いた欄が一つ残っている。「趣味」。 前の号を開いてみる。ゴルフ、キャンプ、パン作り。スコアが九十を切りました、と書いている人もいる。 ビリヤー…
-
写真の中で、ちゃんと笑っていた。
写真 「送別会の写真、上げときます」グループのトークに、十二枚。 一枚ずつ、めくっていく。主役の先輩が、花束を抱えている。その隣で、自分が笑っている。口を大きく…
-
転生したら手球だった件 第5話「俺が、最初から転がった日」
プロローグ 閉店まで、あと一時間。奥の台で、常連のおじさんが「よっしゃ」と言った。今夜は、もう六回目だ。 俺——玉野想(30歳・童貞・万年B級・現在手球)は、手…
