ビリヤードのすゝめ
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空けたところに、水がたまる。
横浜市は、山梨県に森を持っている。道志村という、山あいの村。村の広さの、三分の一あまりが、横浜の水道の森だ。 大正五年に、山梨県から譲り受けた。それから百年あま…
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拾ったのは、誰かが外した玉だった。
ひとーつ。ふたーつ。 窓の外から、声がそろって聞こえてくる。祝日の朝。近くの小学校の校庭で、町内の運動会をやっているらしい。マイクの声が少し割れて、拍手がまばら…
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用意していた言葉は、使わなかった。
会議室の時計が、十時を少し過ぎている。 課長が、来月の展示会の段取りを話している。受付の机を、どこに置くか。 言えることが、一つあった。去年、入口の正面に置いた…
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長く貼るほど、いいと思っていた。
二話め 画面の中で、二人が一本の傘の下に立っている。字幕が、台詞より少し遅れて出る。 エンディングが流れはじめたところで、袋の封を切った。シートマスクを広げて、…
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転生したら手球だった件 第4話「俺が、一度止まった日」
プロローグ 扉が開いた。夜の冷えた空気と一緒に、足音が二つ入ってくる。 お姉さんと、お兄さん。……一緒に、だと。 俺——玉野想(30歳・童貞・万年B級・現在手球…
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二本だけ、残っていた。
小さな桃だった。手のひらに、すっぽり収まるくらいの。六月の半ば、綱島の直売所で買った。夏の桃より、ひと月は早い。皮をむくと、汁が手首のほうまでつたっていく。甘さ…
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昼まで、崩れなかった。
七時十分 卵焼きを、端に寄せる。空いたところに、ほうれん草のおひたし。最後に、ミニトマトを一つ。蓋を閉める。留め具の片方が、少しゆるい。 昼に開けると、たいてい…
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全部を、一度に見ていた。
様 封筒が、四十枚ほど積んである。下期のはじめに、取引先へ出す案内状。宛名は手書きで、と言われた。 会社名。部署名。名前。最後に、「様」。 三十枚めを過ぎたあた…
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すき間は、手でつくるものだった。
つり革。鞄の持ち手。コーヒーの紙カップ。エレベーターのボタン、ペン、マウス、スマホ。昼の定食の箸。また、スマホ。 夜、お風呂の前に指を開くと、関節が少し遅れてつ…
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転生したら手球だった件 第3話「俺の引きが、届かなかった日」
プロローグ 夜のビリヤード場は、今日も同じ顔ぶれだった。奥の台では、常連のおじさんが一人で撞いている。「よっしゃ」が、五分おきに聞こえる。 俺——玉野想(30歳…
