ビリヤードのすゝめ
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栞は、112ページに挟まったままだ。
電車の中で、鞄の底に文庫本を見つけた。 栞が、112ページに挟まっている。 いつから読んでいないのだろう。夏の初めだったような気がする。 開いてみる。登場人物の…
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何もない場所に、先に駅が建った。
1964年、10月1日。東京と新大阪のあいだを、はじめての新幹線が走った。東京オリンピックの開会式は、その九日後。 その途中に、新しい駅が一つできた。横浜の北の…
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ポケットに、去年の秋が入っていた。
明日から、十月。クローゼットの奥から、衣装ケースを引き出す。 蓋を開けると、防虫剤の匂いが立ちのぼる。畳んだままのカーディガン。袖の伸びたニット。一度しか着なか…
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何も、変えていない。
お風呂上がり、洗面台の一番手前。いつもの美容液を、いつもの量だけ手に取る。 頬に触れた瞬間、ぴり、と小さく沁みた。 気のせいかと思って、もう一度なじませる。やっ…
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手に馴染むまで、使い込んだものがある。
革靴を買った日のことは、今でも覚えている。 箱を開けた時の、革の匂い。 最初は少し硬かった。 でも、履くたびに足の形に馴染んでいった。 半年も経つと、靴の方が自…
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気づいたら、競技になっていた。
最初は、遊びだった。 友人と笑いながら撞いて、外れて笑って、入ったら喜んで。 それだけで十分楽しかった。でも、少し通ううちに、変わってきた。 「もう少し入るよう…
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スーパーの袋で、指が鬱血した日のこと。
買い物の帰り道だった。 牛乳2本と、ペットボトルと、夕飯の食材。 レジ袋が、指に食い込んでいた。 信号待ちで手を見ると、指先が白くなっていた。 鬱血している。 …
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美しいのは、数式通りにいかないからだった。
数式は、美しい。 入射角と反射角は等しい。 運動量は保存される。 摩擦係数が決まれば、球の減速率も決まる。 すべてが、論理的に成り立っている。 同じ条件で同じ力…
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自分の手で、やるしかなかった。
不快なことは、できるだけ遠ざけたい。 それは、たぶん誰でもそうだと思う。 暑ければエアコンをつける。 面倒な手続きは代行してもらう。 言いにくいことは、メッセー…
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テーブルの上で、脳が動いている。
その人は、じっとテーブルを見ていた。 腕を組んで、少し首をかしげて、球の配置を見渡している。 何秒だろう。 10秒か、15秒か。 やがて、ゆっくりとテーブルの反…
