誰かがついてくる人になるために。——部下育成に活きる、ビリヤードの思考法。

「自分ならすぐできるのに」——そう思ってしまった夜はありませんか。

丁寧に説明したつもりなのに、伝わらない。
自分がやって見せたのに、同じようにできない。
一生懸命教えているのに、なぜか距離が縮まらない——。

誰かを育てるということは、思っていたより、ずっと難しい。

名選手が、名監督になれるとは限らない

管理職という肩書きは、会社が与えるものです。

営業成績がトップだから昇進する。
数字を出し続けたから役職がついた——でもそれは「自分が動ける人」であることの証明であって、「人を動かせる人」であることの証明ではありません。

名選手名監督にあらず。
そういう組織が、世の中には山ほどあります。

帰り道、一人でふと考えることはありませんか。
「なぜ部下は自分についてきてくれないんだろう」と。

肩書きがあっても、人はついてこない。
でも肩書きがなくても、自然に人が集まってくる人がいます。

肩書きに関係なく、5人が自然についてくる人。
「この人のために」「この人の言うことなら」と思ってもらえる人——それが、本当の意味でのリーダーだと思っています。

そしてその力は、ビリヤードの思考法と深くつながっています。

自分の最善手が、相手の最善手とは限らない

「自分はこうやってきた。だからこうすればいい」

その言葉で、何人の部下が心を閉じてきたでしょうか。

自分のやり方を押しつけているつもりはない。
でも知らないうちに、自分の基準で相手を見ていることがある。

ビリヤードにペアマッチという形式があります。
2人でチームを組み、交互に一球ずつ撞いて取り切りを目指す——そのゲームの中で、非常に重要な判断があります。

自分の番で球を入れた後、次はパートナーの番になります。
パートナーのために、手球をどこに出すか——薄く出した方が次の球への繋がりは良くなる。
でもパートナーが薄い球を苦手としているなら、少し手球の出しを変えてでも、パートナーが厚めに狙えるポジションに出してあげる。

自分の都合ではなく、次に撞くパートナーが動きやすい配置を優先する——その判断がチームとしての取り切りにつながります。

自分ができるからといって、相手も同じようにできるとは限らない。

相手の力量・特性・成長段階を理解した上で「その人が次に動きやすい場所」を作ってあげる。
それが、人を育てるということではないでしょうか。

逆算思考を、相手に向ける

仕事を振ったのに、なかなか成長している実感がない。
毎日忙しくて、育成に時間をかけられていない気がする——そんなもどかしさを抱えたことはありませんか。

「最近、何を教えたらいいかわからなくて」と、ふと呟いてしまう夜もあるかもしれません。

目の前の仕事を振るだけでは、人は育ちません。
「今日何をやらせるか」という視点だけでは、いつまでも場当たり的な育成になってしまう。

逆算思考とは、ゴールから逆算して今何をすべきかを考える力です。

ビリヤードでは、9番をポケットするために8番をどこに出すか。
8番のために7番をどこに出すか——全ての一球がゴールから逆算された設計の上に成り立っています。

育成においても同じです。

この人に1年後どうなってほしいか。
そのために半年後には何ができていればいいか。
今月は何を経験させるべきか——その逆算が、育成の設計図になります。

忙しい日々の中でも、その設計図を持っているかどうかで、日々の関わり方が変わっていきます。

ゴールを持って、逆算して、相手に合わせた一球を選ぶ。

それがビリヤードで鍛えられる思考であり、育てる人に求められる思考です。

👉 逆算思考とビリヤードについてはこちら

最初の一球が、全てを決める

新しいメンバーが配属された日のことを、覚えていますか。

少し緊張した表情で挨拶をして、自分のデスクに座る。
何をすればいいかわからないまま、周りの様子を窺っている——そういう姿を見た時、あなたは最初に何をしますか。

ビリヤードではブレイクショットという最初の一球があります。
どこにどう打つか、どんな配置を作るか——最初の設計が、その後の取り切り全体の流れを決めます。

育成も同じです。

配属された時の最初のMTGが、その後の関係性の全てを決めると言っても過言ではありません。

そのMTGで、ひとつ試してみてほしいことがあります。

まず、目標を一緒に設定すること。
そして「カッコいい大人」の定義を一緒に考えること。
どんな人間になりたいか、どんな仕事人でありたいか——その話を、最初にしっかりとする。

大事なのは「一緒に」という部分です。
上から与えるのではなく、同じ方向を見つめながら、共にそこへ向かうパートナーとして関係を始める。
その最初の一球が、その後の全ての取り組みの土台になります。

上から与えられた目標は、やがて義務になります。
でも自分ごととして持てた目標は、内側から動く力になる——その違いが、長期的な成長を左右します。

👉 内発的動機づけと上達の本質についてはこちら

そして最も重要なのが、ルールを一緒に作ることです。

わからないことが出てきた時は同期や歳の近い先輩ではなく上司に聞く。
メモを取る。
質問する前に一度メモを見返す——そういった部下側のルールだけでなく、自分自身のルールも作ります。

どんなに忙しくても質問されたら必ず手を止めて話を聞く。
どうしても手を離せない時はその旨をきちんと伝える。
後で必ずこちらから声をかける——。

一方的に課すルールではなく、お互いが合意した上で作るルール。

そうすることで、伝え方が変わります。

「なんでメモを取らないんだ」という感情的な言葉ではなく、「一緒に決めたルールを守れていないよね」という、落ち着いた指摘ができるようになる。

伝えられた側も、感情的に責められたと感じるのではなく、「自分が破ったのはルールだ」と素直に受け止めやすくなります。

最初の一球をどう設計するか。
それが、その後の全ての取り切りを左右するのです。

リカバリーを、一緒に楽しめるか

部下がミスをした時、あなたはどんな顔をしていますか。

思わずため息をついていないか。
「また同じミスか」という言葉が出そうになっていないか。

どれだけ丁寧に育てても、人はミスをします。
思い通りにいかないことの方が多い。
それはビリヤードも同じです。
完璧な取り切りなど、プロでも難しい。
大事なのは、ミスの後にどう立て直すか——リカバリーの力です。

ミスを責めるのではなく、「次はどうしようか」と一緒に考える。
その経験を積み重ねていくことで、人は本当の意味で強くなっていきます。

そしてそのリカバリーの場面で、その人の「器」が見えます。

ため息をつく人と、一緒に考えられる人。
どちらに5人がついてくるか——答えは明らかです。

肩書きではなく、人として

もう一度言います。

管理職という肩書きは、会社が与えるものです。
でも「この人のために」という気持ちは、肩書きでは生まれません。

その人のことを理解しようとすること。
その人が動きやすい場所を作ろうとすること。
その人のミスを一緒に乗り越えようとすること——そういった積み重ねの中に、本当のリーダーシップが宿ります。

5人が自然についてくる人になること。
それは技術ではなく、思考であり、姿勢です。

飲みの席で部下の話を聞きながら、ふとそう思う夜があるかもしれません。

テーブルの前に立つ時、あなたは今どんな一球を選んでいますか。


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