好きなものと過ごす、時間のこと。

日曜日の朝だった。

カーテンから、白い光が差し込んでいた。
雨上がりの空気が、窓の隙間からほんのり漂ってくる。
外は静かだった。

冷蔵庫から豆を取り出した。


コーヒーミルを手に取る。

お気に入りの一台だ。
アルミニウムの削り出し、手に馴染む重さ。
引き出しを開けると、前回挽いた豆の香りがかすかに残っている。

豆を計る。
15グラム。
いつもと同じ。

ミルのハンドルを回し始める。

最初は少し固い。
でも、豆が割れ始めると、ざらりとした感触に変わる。
挽きたての香りが、一気に立ち上がる。

酸味と甘みが混じった、この香り。
この香りがあるから、手挽きをやめられない。


ケトルに水を入れて、火にかける。

温度計を横に置いた。
今日は91度にしようと思った。

ドリッパーをセットする。
フラワードリッパー——花びらのようなリブが、光を受けてわずかに輝いている。
ペーパーをセットして、お湯で濡らす。

紙の臭いが、消えていく。


温度計の針が、ゆっくり上がっていく。

キッチンに、コーヒーの香りが広がり始めた。

90度。
91度。

細口のケトルを持つ。
ノズルの先から、細い糸のようなお湯が落ちていく。

中心から、円を描くように。
焦らず、ゆっくり。

豆がふくらむ。

蒸らしの30秒は、この膨らみを見ている時間だ。
豆が呼吸している、と思う。
鮮度のいい豆ほど、大きくドームになる。

今日のは、よく膨らんだ。


二投目。

また細く、ゆっくりと。

お湯が豆に触れるたびに、香りが変わっていく。
最初は酸味の鋭い香り。
だんだん甘みが出てくる。

三投目。

少し量を増やして、最後まで注ぐ。
最後に、少し苦みが混じる。

この変化を、目と鼻で追っている時間が好きだ。

誰かに説明できるものでもない。
理解してもらおうとも思っていない。

ただ、好きなのだ。


サーバーに、一杯分が落ちた。

カップに注ぐ。

湯気が、ゆっくりと立ち上る。
香りが、部屋に満ちる。

一口飲む。

目を閉じた。

酸味が来て、甘みが続いて、最後にほんの少しだけ苦みが残る。
今日の一杯は、よかった。


キッチンに、道具が並んでいる。

ミル、ケトル、ドリッパー、スケール、温度計、カップ。

誰かに見せたくて集めたわけじゃない。
でも、この並びを眺めるのが好きだ。

それぞれに理由があって、それぞれを選んだ。
使うたびに、正解だったと思う。


カップが空になった頃、外が明るくなっていた。

立ち上がって、キューケースを手に取った。


ビリヤード場に入ると、いつもの空気があった。

かすかにジャズが流れていた。
ラシャの緑に、照明が落ちている。

キューを組み立てる。

重さを確かめる。

ジョイントを締める感触が、手に馴染む。

チョークを塗る。

青い粉が、ゆっくりと革に乗っていく。

豆を選ぶ感覚と、どこか似ている。

厚みを確かめる。
狙いを定める。
息を整える。
ゆっくりとキューを出す。

球が転がる。
静かな店内に、小さな音だけが残った。


好きなものと過ごす時間は、説明しなくていい。

誰かに理解してもらおうとも思わない。

ただ、その時間が好きで、だから続けている。

それだけで、十分だと思う。

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